ドイツでの学び

  今年は、暑さは厳しく、雨が降ればはげしいといった変化が極端な夏となりました。体温を一定に保とうと私たちの自律神経は大忙しだったのではないかと思います。昼の暑さはまだ続きますが、夜には秋の虫たちの声が確実に次の季節の到来を告げてくれています。もうしばらくの辛抱です。ご自愛ください。

 7月6日から10日間ドイツに研修に行ってきました。パンの歴史が何千年も続く地で、パンの本質について考え、学ぶ機会は、私にとって10数年越しの念願でもありました。

 今回の研修の中で特に印象に残ったのが、フランクフルトから東へ列車で1時間ほどのダックスバッハという田舎町にあるArndElbel(アルントエルベル)というパン屋でした。300年以上続く、ドイツでも3本の指に入る老舗パン屋でした。田舎町でしたが、たくさんの方がひっきりなしに来店されていました。

 このパン屋では市販のパン酵母は使用せず、自家培養の「種(たね)」の力だけでパン生地を膨らませていました。木輪でも自家培養の種は3種類ほど存在しますが、市販のパン酵母の発酵力に比べるとやはり劣るというのが現実です。市販のパン酵母も自家培養の種もパン生地を膨らませる酵母の種類は科学的に全く一緒であることは周知されています。この300年以上続くパン屋の工房には古くから住み続ける良好なパン酵母が多く存在しているのでしょう。その酵母の発酵力は私が今まで経験したことがないほど強力でした。この生命力に私は大変感動しました。そして、地元でとれた小麦やライ麦など穀物をはじめとした多くの畜農産物(バター、チーズ、ハム、ソーセージ)を活かした「食」を提供するパン屋としての役割を果たされていることが大変素晴らしいと感じました。パンを造るなかで材料をとても大切にし、住み着いている良好なパン酵母に感謝し、その自然の偉大な力を周囲の人々の暮らしを豊かにするために活かすというパン屋の「使命」ともいうべき原点を感じることができました。

 私もこれから木輪がArndElbelのように長く人々に愛されるパン屋にしたいと思います。そして、自然の恩恵に感謝しながら、パンをはじめとする「食」を提供し、皆さまの暮らしを豊かにする一助となれるよう精進していきたいと思います。