木々のささやき 338号

おいしいパンは心で造る

 仕事には、その人の日頃からの心の状態がよく反映されると思っています。パン造りとて同じことです。パンは思いを込め、丁寧に処理(製造)すればするほど必ず形のよい、おいしいパンへと変化していきます。商品(パン)は自分の心の投影であり、良くも悪くも自分の心の状態を裏切るものではありません。

 

 身のまわりの整理整頓が行き届いている人、ひと仕事ひと片付けがきちんとできている人のつくるパンは形がととのってふっくらでパン生地の特徴がよくあらわれた商品となります。つくる時の心の状態もたぶん穏やかで落ち着いた状態だろうと想像できます。作業手順にも無駄がなく、工夫や改善のポイントも容易に見につけることができ、生産性にも良い影響を与えています。

 

 創業して間もない頃の私は、これとは全く反対の状態だったことを思い出します。技術や技能が未熟なのは言うに及ばず、心の状態もずい分と荒けずりで、いつもセカセカ、イライラしていたことを思い出します。身のまわりの整理整頓には目がいかずその大切ささえも気づいていませんでした。とにかく造ることだけにとらわれていて、当時の商品は今振り返ってみても、たぶんお客様の心を打つことはなかっただろうと思われます。

 

 そのような私が素心学(池田繁美先生)と出会ってから、少しずつ心の落ち着きとおだやかさが身につくにつれて、商品にもだんだんと落ち着きが出てまいりました。形のバラツキ、大きさのバラツキ、焼き色のバラツキ等が少なくなり品質が少しずつ向上してきました。それとともに、次第に自分のパンに自信が出てきました。良い仕事をしようとするなら、また良い商品をつくろうとするなら、まず心を調えておくことが大切だと学びました。心を調えることで心のブレを無くしていくことが大切です。ブレのない心でパンの状態を見ると、品質も安定してくることがわかりました。

 

 このような体験から、ともに仕事をする社員に対しても、技術や技能の向上とともに人間性の向上が商品に大きく影響することを理解してもらった上で、素心学の学びをともにおこなっていくことになりました。現在8名の社員が素心学を学ばせていただいていますが、心を調えて、素直な心、思いやりの心が定着できることを願っています。

 

2019年3月 338号より 芳野 栄