木々のささやき 331号

謙虚に正す

 素心学(池田繁美先生)で大切にしている言葉の一つに「自己を知り、自己を正す」という言葉があります。その意味するところは、「自分に欠けているところに自分で気づき、そこを正していきましょう」ということです。

 先日、素心塾の勉強会で美容室ブレスを経営されていらっしゃる松本喜久さんから次のような発表がありました。”塾生に学ぼう”というテーマで、「素心学を学んでいる他の塾生を訪ねて自己を知るきっかけにする」という内容の発表でした。謙虚に自己を知るつまり、自分に欠けているところに自分で気づくきっかけにし、正していこうと努力されていらっしゃることが伝わってまいりました。

 私は創業前(修業中)から多くのパン屋さんを訪問し、店づくりや商品構成、店内の雰囲気や、店主の大切にしているところ(経営姿勢)等々を調査し、多くの商品を手に入れて研究しました。又、創業後も繁盛店やそうでないお店も訪問させていただき、繁盛店ではその良いところを、そうでないところの店では、”反面教師”となるところを感じ、自分の店に欠けているところをよりよく知ることができました。その積み重ねの結果が現在の木輪の”礎”となったことは間違いありません。

 自分の造ったパンに絶対の自信を持ち、次第に謙虚さを失っていく経営者を拝見してきましたが、そういうお店は十数年後には輝きを失ったお店に変化していました。たぶんその経営者は、そうした変化にも気づいていないのでしょう。時代の変化とともに、その変化を敏感に感じ、謙虚に自店の欠けているところに気づき、そこを正していくことが求められています。

 これらを、木輪の社内に限ったことで言うなら、生地をつくる工程から焼成、販売に至るまでの全工程で、それにたずさわるスタッフ一人ひとりが、自分のやっていることに目をこらし、欠けているところはないか、さらに工夫や改善をするところはないかなど、謙虚に自己を正しながら仕事を進めていくことが求められます。また、出来上がった商品を、翌日食べてみて、各工程を振り返ってみることが大切です。自分の能力の欠けているところに気づくには、こうした地道な努力が欠かせません。

 自分の欠けているところに自分で気づき、そこを謙虚に正していくことでその向こうにお客様の笑顔や喜びがあるに違いありません。

 

2018年8月 331号より 芳野 栄